2020年春。
新型コロナウイルスの影響で、里帰り出産を断られた妊婦がいるというニュースが出ていた。地域によっては、コロナ患者の対応のために通常の診察や手術ができないほど逼迫しているといわれていた。
県外への引越しで問題になったのは、転院先だった。そもそも転居前の土地に比べると病院の数が少ないのだ。
医師は、産婦人科のある医療体制が整った大きな病院のほうがいいといった。
そうなると候補は2カ所。車で20分の病院か、1時間かかる病院か。
ピルを処方してもらうとなると通院することになる。土地勘のない場所を苦手な運転で通院し、不測の事態が起きたときにも行けるだろうか。
そう考えると、車で20分の病院の選択肢しかないように思えた。
コロナの状況によっては転院を断られるかもしれないと言われたが、幸いにも受け入れてもらえた。
子宮体がん検査の結果は陰性で、内膜の厚みも正常範囲。
そこでヒスロンの服用を中止して、低用量ピルに切り替えることになった。
「ピルを処方しておくので、次の生理が始まったら服用を開始してください。そのあとどうするかは転院先の医師と相談してください」と言われた。
引越しがおわり、新しい生活が始まった。
しかし。
待てど暮らせど生理がこない。
4回目のヒスロンの服用後に出血して以降、生理がこないのだ。
このままないのか、それとも突然くるのか。
結局ピルの出番がないまま2ヶ月がたち、指定されていた転院先の初診日がきた。
「内膜は2ミリしかないです。ホルモンの分泌がうまくいってないんでしょうね。子宮頸がん検査をしておきましょう。子宮体がん検査は1年に1回でいいでしょう」
男性医師はそう言った。
待っていても生理はこなさそうなので、今日から処方されたピルを服用していいとのことだった。20代で服用していた低用量ピルと同じく、21日間服用して7日間休薬するタイプだ。
「休薬期に出血がないこともありますが、気にせず日付で管理して服用してください。低用量ピルは服用開始1~2年は血栓症になりやすいですが、その後は飲み続けて大丈夫です。服用してある程度したら血液検査をしましょう。ピルの処方は初めての時は1ヶ月分しか出せませんが、その後は3ヶ月分処方できます」
1回目の休薬期間には出血はなかったが、2回目の服用中にようやく出血があった。
前回の出血から3ヶ月ぶりだ。3回目の服用中には、数日ほど両胸全体が痛くなった。下着が触れるのも痛い。20代の服用中にはなかったと思うが、これはピルの副作用らしい。
その痛みもなくなり、出血もほどよい量が出て、きちんと止まるようになった。
そうなると、20分かけてやって来て、短い診察以上の待ち時間を過ごす、この病院にくる理由がわからなくなってきた。
ピルの処方だけなら、家の近くにある開業医でいいのではないかという考えが頭をもたげてきたのだ。
転院して7ヶ月たった、2021年3月。
家の近くの病院に移りたいので紹介状がほしいと伝えた。
しかし、その話は立ち消えになった。
あらたな問題が見つかったのだ。