③余韻【子宮内膜全面搔爬術】

「ウッ」

突然意識が戻った。視界はぼんやりとしていて、照明と酸素マスクの端が見える。

 

まさかと思った。

手術中という最悪なタイミングで麻酔が切れたらしい。

 

まだ子宮を器具でまさぐられている。

なぞられる感触が分かるだけならまだしも、痛い。ものすごく痛い。

でも、ここでへたに動いて子宮に傷がついたらいやだ。

痛みと理性が闘い、徐々に意識がはっきりしてくるのに、舌が麻痺して言葉が出ない。

 

息を意識的に押し出して、なんとかうめき声がでた。

左側にいた看護師が異変に気づいてくれた。

「目が覚めました? あとちょっとですよ、頑張って。あとちょっと」

手を握ってくれた。

うめき声しかでないのがもどかしい。

痛みのあまり、看護師の手を強く握り返した。

「もしかして痛い?」

気持ちとは裏腹にのろのろとしか動かない頭で必死に首をふり、うめき声を出し、看護師の手が折れそうなほど強く握り返した。看護師が何かやりとりをしているあいだ、医師の声がかすかに聞こえてくる。

「あとちょっとだよ」「もうすこしで終わりますからね」「終わりました」

麻酔が追加されたのか、また意識が落ちた。

 

ベッドにうつされるときに意識が戻り、またすぐに意識が落ちた。

 

医師や看護師が何度か病室に来ると気配で意識が戻るが、目の焦点が合わず体の感覚がない。起き続けていられず、寝て意識が戻るのを繰り返し、うつらうつらが続く。

 

なんとか起きあがれるようになって時間をみると16時になっていた。

13時から始まった約5分の手術で、3時間も寝て起きてを繰り返していたことになる。

看護師の付き添いでふらふらしながらトイレに立つと、布団に血がもれていた。麻酔がまだ効いているのか、下腹部の痛みはまったくない。

 

しかしここからが長かった。

とにかく頭がぼんやりするのと、立ち上がると吐き気が止まらなくなる。

夕方に帰れると言われて日帰り入院になっていたが、「一泊しますか?」と何度も聞かれた。

公共機関かタクシーで帰宅するつもりだったのに、どうにもならず旦那に迎えに来てもらうことにした。

それでもすぐには起き上がれず3時間近く待たせることになった。

車椅子で駐車場に移動し、ようやく帰宅したときには20時を過ぎていた。

 

出血も下腹部の痛みもほぼなかったが、麻酔の影響は抜けず、吐き気は翌朝まで続き頭痛は夜まで続いた。

 

この痛い経験で、ヒスロン500㎎を6ヶ月間服用しながら、子宮内膜全面搔爬術を最低3回も受けるのはイヤだと思った。

治療を受けたとしても再発率が70%だということも背中を押す。

子宮内膜増殖症(異型なし)が見つかってヒスロン5㎎の投薬治療をしたが、わずか10ヶ月で子宮内膜異型増殖症が見つかるという経験をしただけに、たとえ5㎎から500㎎に投薬量を増やして治療しても、やはり再発するんじゃないかという疑問がつきまとう。

再発すれば、また同じ治療をすることになるか、進行すれば子宮全摘になるのは目に見えている。

便かもしれないと前置きしたうえで、エコーで卵巣が白く見えると言われたことも気になっていた。

投薬と搔爬で治癒した時点で、すぐに不妊治療を始めればいいかもしれないが、そう都合よく子どもができるかも分からない。

 

そもそも。

わたしは子どもを産みたいのだろうか。